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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)139号 判決 1959年10月31日

控訴人 国

訴訟代理人 吉永多賀誠 外一名

被控訴人 沖縄人連盟 外五名

主文

原判決中被控訴人沖縄人連盟に関する部分を取り消す。

被控訴人沖縄人連盟は控訴人に対し金二百二十八万一千四百五十円並びにこれに対する昭和二十五年十月一日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。

被控訴人沖縄人連盟に対する控訴人その余の請求を棄却する。

その余の被控訴人らに対する控訴人の控訴を棄却する。

被控訴人宇根清一に対する控訴人の請求(当審拡張分)を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人連盟との間に生じた部分は、第一、二審とも被控訴人連盟の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた控訴費用は控訴人の負担とする。

本判決中控訴人勝訴の部分は仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し各自金二百三十万三千二百五十五円並びに内金二万一千八百円に対しては昭和二十四年七月五日から、内金二百二十八万一千四百五十五円に対しては昭和二十四年十月二十三日から各支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人宇根清一に対する予備的請求として、被控訴人宇根清一に対する第一次請求が理由がないときは、「被控訴人宇根清一は控訴人に対し金二百三十万三千二百五十五円並びに内金二万一千八百円に対しては昭和二十四年七月五日から、内金二百二十八万一千四百五十五円に対しては昭和二十四年十月二十三日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人宇根清一の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人仲宗根仙三郎、同宇根清一を除くその余の被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求め、被控訴人仲宗根仙三郎、同宇根清一は答弁をしない。

当事者双方の事実上の陳述は、当事者双方において次のとおり陳述した外、原判決事実摘示(添附目録をふくむ。)記載のとおり(ただし原判決二枚目裏末行に「私法人」とあるのは誤りであることが明らかであるからこれを削除した上)ここにこれを引用する。

一、控訴人の新な陳述。

(一)  食料品配給公団は昭和二十五年三月三十一日政令第四六号食料品配給公団解散令によつて解散し、昭和二十五年九月三十日清算を結了し、その旨の登記を了した。本件債権は、右政令第十三条「残余財産は国庫に帰属する。」との規定に基き、控訴人国に帰属したので、控訴人国は昭和二十六年八月二日政令第二八〇号の趣旨に従い右公団の訴訟承継人として当然本訴を承継した。

(二)  被控訴人宇根清一は、被控訴人沖縄人連盟(以下被控訴人連盟と略称する。)の使用人で、その食品部長として被控訴人連盟のため食料品配給公団(以下公団と略称する)から罐詰を購入する手続の一切を行つたものであつて、被控訴人宇根は被控訴人連盟のため本件取引をなす代理権を有していた。

(三)  仮りに被控訴人宇根が右代理権を有しなかつたとしても、被控訴人連盟は公団に対し被控訴人宇根に右代理権を与えてある旨表示したもので、公団はそれによつて被控訴人宇根に右代理権ありと信じて本件罐詰を売り渡したものである。よつて被控訴人連盟は民法第百九条によつてその責に任すべきものである。

(四)  仮りに然らずとするも、公団は、都道府県知事又は農林大臣が被控訴人連盟の申請に基き被控訴人連盟あてに発行したところの特別購入券と引換に本件罐詰を売り渡したのであつて、この特別購入券は、昭和二十一年法律第三十二号臨時物資需給調整法第一条に基く昭和二十二年農林省令第百二号罐詰需給調整規則上、他人に譲渡し、又は他人から譲り受けることができないものである。従つて特別購入券の名義人のみがその物資の配給を受け、その買受人たり得るのである。しかして右罐詰需給調整規則廃止の後も、その手続に変るところはなかつたから被控訴人連盟が右特別購入券を被控訴人宇根に譲渡したとしても、その特別購入券の名義人たる被控訴人連盟は、被控訴人宇根が公団に対し被控訴人連盟の名で右特別購入券を行使することを当然予見していたものであるから、被控訴人連盟は、被控訴人宇根の右特別購入券の行使につきその責に任ずべきことは、民法第百九条、商法第二十三条等の精神に徴しても明らかである。

(五)  被控訴人連盟は、罐詰特別購入券を入手する手段として沖縄人難民労働組合という名称を用いたものであつて、原判決添附第一目録の分については特別購入券は右組合を購入者として発行された記名式のものであるけれども、右特別購入券の申請者は被控訴人連盟であり、被控訴人連盟がこれを受領し、これが配給を受けたものである。

原判決添附第二目録の分については、特別購入券は被控訴人連盟の申請により被控訴人連盟を購入者として発行された記名式のものであり、被控訴人連盟に交付されたものである。

(六)  被控訴人宇根清一に対する予備的請求の原因。

被控訴人宇根は公団に対し本件罐詰の買主が被控訴人連盟であると申し向けて公団を欺罔し、本件罐詰を公団より受け取つたものであるが、右被控訴人宇根の行為は、第一に、民法第七百三条、第七百四条に該当する。すなわち、被控訴人宇根は法律上の原因なくして公団より本件罐詰を受け取つたことにより右物件売渡代金に相当する利益を得たものであり、公団はこれに相当する損害を受けたことになるから、被控訴人宇根は悪意の受益者として右売渡代金額である金二百三十万三千二百五十五万円、並びに内金二万一千八百円に対してはこれに相当する価額の物件を受領した昭和二十四年七月五日から、内金二百二十八万一千四百五十五円に対してはこれに相当する価額の物件を受領した昭和二十四年十月二十三日からそれぞれ支払ずみまで年五分の金員を支払うべき義務がある。第二に被控訴人宇根の右の行為は公団から右物件を詐取したものとして、民法第七百九条にも該当するから、控訴人は不法行為を原因とし、被控訴人が公団から詐取した右罐詰の損害額並びにこれに対する詐取の日から支払ずみまでの遅延損害金として前記金員の支払を求める。

二、被控訴人仲宗根仙三郎、同宇根清一両名以外の被控訴人らの答弁。

前記一記載の控訴人の当審における主張事実中、控訴人が本件訴訟を承継した理由としてあげた事実、原判決添附第二目録の分について特別購入券が被控訴人連盟の申請により、被控訴人連盟を購入者として発行された記名式のものであり、被控訴人連盟に交付されたものであることは認めるが。その余の控訴人主張事実は否認する。被控訴人連盟は、被控訴人宇根に代理権を授受したこともなく、又公団に対し同被控訴人に代理権を与えた旨表示したこともなく、又同被控訴人に特別購入券を譲渡したこともない。

被控訴人仲宗根は、当審における控訴人の新な主張につき答弁をなさず、被控訴人宇根は公示送達による適式の呼出を受けながら、当審における本件口頭弁論期日に出頭しない。

証拠として、控訴代理人は、甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし二十二、第六号証の一ないし三十、第七ないし第十四号証、第十五号証の一ないし三、第十六号証の一、二、第十七、第十八号証の一ないし三、第十九号証、第二十号証の一、二、第二十一号証の一ないし三、第二十二ないし第二十五号証、第二十六号証の一、二、第二十七号証の一ないし三、第二十八ないし第三十号証、第三十一号証の一、二、第三十二、第三十三号証、第三十四ないし第三十六号証の各一ないし三、第三十七、第三十八号証の各一ないし四、第三十九ないし第四十二号証の各一、二、第四十三号証の一ないし五、第四十四、第四十五号証、第四十六号証の一ないし三、第四十七、第四十八号証の各一、二、第四十九、第五十号証、第五十一号証の一ないし三、第五十二ないし第五十四号証の各一、二を提出し、原審並びに当審証人林敏通、原審証人宇根清一、原審(第一回)証人佐野知秀、当審証人香取勇(第一、二回)、海老沢文蔵の各証言を援用し、乙第二号証、第三号証の一、二の成立を認める、乙第七号証につき、特別購入券が乙第七号証のような様式のものであることは認めるが、乙第七号証の記載内容の成立は否認する。その余の乙各号証の成立は不知と述べ、被控訴人宇根同仲宗根を除くその余の被控訴人ら代理人及び被控訴人仲宗根は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二を提出し、原審証人上江洲太郎、佐野知秀(第一、二回)、海老沢文蔵、香取勇の各証言、原審における被告(被控訴人)宮良寛雄こと宮川寛雄同仲宗根仙三郎各本人尋問の結果を援用し、被控訴人連盟、同神山、同伊元代理人は、乙第四号証、第五号証の一、二を提出し、当審における被控訴人仲宗根仙三郎本人尋問の結果を援用し、被控訴人宮川代理人は、当審証人上江洲太郎の証言、当審における被控訴人宮川寛雄本人尋問の結果を援用し、被控訴人宇根同仲宗根を除くその余の被控訴人ら代理人はさらに、乙第六、第七号証を提出し、甲第一、第二号証、第十二号証、第十四号証、第五十三、第五十四号証の各一、二の成立を認める、同第三、第四号証いずれも表面の沖縄人連盟総本部および裏面の沖縄人連盟東京本部長宮良寛雄の各ゴム印及びその名下の押印部分の成立を認める、その余の部分の成立を否認する、その余の甲各号証の成立は不知と述べ、被控訴人仲宗根は甲第一号証以下第十四号証の成立につき前同様の認否をなし、その余の甲各号証の成立については認否しない。

理由

公団が食料品配給公団法に基いて設立されたものであり、昭和二十五年三月三十一日解散し、同年九月三十日清算結了し、その旨の登記を了したこと、右公団の有していた債権が国庫に帰属したことは、当裁判所に顕著であるから、控訴人国は公団の提起した本件訴訟につき昭和二十六年八月二日政令第二百八十号の趣旨に従い、公団の訴訟承継人となつたものというべきである。

次に被控訴人連盟の当事者能力につき職権をもつて調査するに、成立に争のない乙第三号証の一、二、原審証人上江州太郎の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人連盟は、沖縄出身者の援護を目的の一とし、沖縄えの帰還者や困窮者のための食料品の特配等の事業を行つていた団体であつて、内地在任の沖縄出身者で昭和二十三、四年頃会員名簿に登載されていた者が七万五千名ないし八万名あつたこと、被控訴人連盟は代表者として会長、副会長などをおき、決議機関として全会員により構成せられる大会があつたこと、被控訴人連盟は昭和二十三、四年当時は東京都港区芝田村町一丁目二番地日産館内に総本部の事務所をおき、会長、副会長の下に、総務局、業務局の二局をおき、事務の執行にあたつていたことが認められるから、被控訴人連盟はいわゆる権利能力なき社団にあたるものというべく、民事訴訟法第四十六条の「法人に非ざる社団にして代表者の定あるもの」にあたることは明らかである。

控訴人は、まず第一に、公団が昭和二十四年七月四日に、同年六月十日付の食糧庁指令書、「二四食糧第三、〇八二号」に基いて、代金は即時に支払を受ける約束で、原判決添附第一目録記載の物品を代金合計三十二万三千七百四十円で被控訴人連盟に売り渡したと主張する。しかして、控訴人は、右物件の購入名義は沖縄人難民労働組合であるけれども、沖縄人難民労働組合なる名称は被控訴人連盟が罐詰特別購入券を入手する手段として用いたもので、右特別購入券交付の申請者は被控訴人連盟であるから、右物件は被控訴人連盟に売り渡されたものであると主張しているのである。そこでこの点についての証拠を調べるのに、当審証人林敏通、香取勇(第一回)、海老沢文蔵の各証言によつても、被控訴人連盟が沖縄人難民労働組合の名を用いて罐詰特別購入券交付の申請をなしたこと、あるいは、被控訴人連盟が右物件を買い受けたことを認め難く、その他右控訴人主張事実を認めるに足る証拠はない。かえつて、原審並びに当審における被控訴人(被告)仲宗根仙三郎の供述によれば、被控訴人連盟と沖縄人難民労働組合とは別個の団体であることが認められる。よつて原判決添附第一目録記載の罐詰については、被控訴人連盟にこれが代金支払の義務ありとする控訴人の主張は、その余の争点につき判断するまでもなく、すべて失当であつて、右罐詰代金の支払を求める控訴人の請求は棄却すべきものである。

控訴人は、第二に、公団は被控訴人連盟に対し昭和二十四年十月二十二日に、同年七月二十二日食糧庁指令書「二四食糧第四、六三二号」に基いて、原判決添附第二目録記載の物品を、代金合計二百二十八万千四百五十五円、代金即時支払の約束で売り渡したと主張している。よつて右事実の存否につき調べるのに、成立に争のない(但し被控訴人宇根は第一審において明らかに争わないから自白したものとみなす)甲第二号証、原審証人佐野知秀の証言(第一回)、同証言によつて真正に成立したと認める甲第七ないし第九号証、当審証人香取勇の証言(第二回)、同証言によつて真正に成立したと認める甲第三十八号証の一ないし四、同第十五号証の一、三、原審証人宇根清一、当審証人香取勇(第一回)、林敏通、海老沢文蔵の各証言を綜合すれば、公団は罐詰需給調整規則(昭和二十二年農林省令第百二号)に基き、同規則によつて発行された特別購入券によつて被控訴人連盟に罐詰を売り渡して来たところ、昭和二十四年七月二十一日右規則が廃止された後、公団は同様の手続により被控訴人連盟を購入者として発行された記名式の罐詰特別購入券を提出した被控訴人宇根に対し、昭和二十四年十月二十二日同月二十五日の二回にわたり右特別購入券に記載された品種及び規格に相当する原判決添附第二目録記載の罐詰を代金二百二十八万一千四百五十円とし、貸売扱とし、代金は後日支払を受ける約束の下に、被控訴人宇根に対して三通の荷渡指図書(罐詰を沖縄人連盟殿へ本指図書引換に荷渡して下さいと記載してあるもの甲第七ないし第九号証参照)を交付し、被控訴人宇根をして、右指図書と引換に右罐詰をその保管者たる倉庫業者から受領せしめたことを認めることができる。

そこで被控訴人宇根の権限について調べるのに、原審証人宇根清一の証言、同証言により被控訴人宇根が作成したものと認められる甲第三、第四号証、当審証人香取勇(第一回)、同林敏通の各証言によれば、被控訴人宇根が「沖縄人連盟総本部食品部長」と自称していたことが認められるけれども、被控訴人宇根が被控訴人連盟の使用人ないしは代理人であつたと認められる証拠はない。却つて原審証人宇根清一の証言並びに原審における被控訴人仲宗根仙三郎の尋問の結果の一部(後記信用しない部分を除く)を綜合すれば、被控訴人宇根は当時被控訴人連盟の副会長であつた被控訴人仲宗根に対し被控訴人連盟の食品部長に選任することを求めたけれども、被控訴人仲宗根は被控訴人宇根を食品部長に選任する手続をとらなかつたことを認めることができる。原審における被控訴人仲宗根本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。そうだとすれば、被控訴人宇根が、被控訴人連盟の使用人としてこれより代理権を附与せられていたとのことを前提とする控訴人の主張は排斥を免れない。

次に、控訴人は、被控訴人連盟が公団に対し被控訴人宇根に罐詰買入の代理権を与えた旨表示したから民法第百九条によつてその責に任ずべきものであると主張しているので調べるのに、前段認定のように被控訴人宇根が公団に対して被控訴人連盟の食品部長と称していたことは認められるけれども、本件一切の証拠によつても被控訴人連盟が被控訴人宇根に代理権を与えた旨を公団に対して告げた事実も認められないし、又被控訴人連盟において被控訴人宇根が被控訴人連盟の食品部長であると自称しつゝあつたことを明示的にも、暗黙にも承認しておつた事実をも認め得ないから、控訴人の右主張は採用し得ない。

さらに控訴人は次のように主張する。すなわち本件特別購入券は記名式で譲渡を許されないものであるから、被控訴人連盟を購入者として発行された特別購入券を被控訴人連盟において被控訴人宇根に譲渡したとしても、被控訴人宇根がこれを用いて倉庫業者に対する荷渡指図書の交付を受け、これによつて本件罐詰を受領した以上被控訴人連盟はその代金支払義務を免れないというのである。よつて考えるに、原判決添附第二目録の分についてこれが購入に用いられた特別購入券が被控訴人連盟の申請により被控訴人連盟を購入者として記載して発行された記名式のものであり、被控訴人連盟に交付されたものであるとの、当審における控訴人主張事実については、被控訴人仲宗根、同宇根を除く被控訴人らの認めるところであり、被控訴人仲宗根は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべく、被控訴人宇根については、原審証人宇根清一の証言、並びに弁論の全趣旨を綜合してこれを認め得る。しかして被控訴人宇根が右特別購入券を公団に提出し、前段認定の経緯で原判決添附第二目録記載の罐詰の引渡を受けたことは、前段認定のとおりである。

そこで、被控訴人宇根がいかにして右特別購入券を入手したかを調べるに、原審証人宇根清一の証言によれば、被控訴人宇根は右特別購入券を被控訴人連盟の副会長であつた被控訴人仲宗根から交付を受けたものであることは明かである。原審並びに当審における被控訴人(被告)仲宗根仙三郎本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。その他右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、原審証人上江洲太郎の証言、原審における被控訴人仲宗根仙三郎本人尋問の結果を綜合すれば、被控訴人仲宗根は当時被控訴人連盟の副会長兼業務局長として被控訴人連盟の事業の運営にあたつていたことが認められる。

しかして被控訴人宇根が右特別購入券の交付を受けた日時は、前掲甲第二号証、同第七ないし第九号証を綜合すれば、昭和二十四年七月二十二日以後同年十月二十二日頃までの間であつたものと認められ、かつ前記罐詰需給調整規則が、昭和二十四年農林省令第七十一号をもつて昭和二十四年七月二十一日に廃止せられた後のことであることは明らかである。しかしながら、罐詰需給調整規則が廃止せられた後においても少くとも昭和二十四年中は公団が農林省の指令に従い、罐詰需給調整規則による手続に準拠し、特別購入券と引換に特別購入券に記載せられた購入者に対し、代金引換又は代金は後日支払を受ける約束で荷渡指図書を交付し、購入者は荷渡指図書と引換に倉庫業者から荷渡指図書に記載されている罐詰の引渡を受ける方法によつて罐詰を配給していたこと、罐詰需給調整規則廃止後も、特別購入券は従来通り購入者を特定した記名式で発行せられ、特別購入券には、これを他人に譲り渡すことを禁止する旨が記載されていたことは、当審証人林敏通、香取勇(第一回)の各証言を綜合してこれを認めることができる。しかして右特別購入券が被控訴人連盟の申請により被控訴人連盟を購入者と記載して発行された記名式であつたことは、前段認定のとおりであるから、これを被控訴人宇根に交付した被控訴人仲宗根は、右特別購入券に譲渡を禁ずる旨の記載がありこれを譲渡できないことは熟知しているものと認められ、従つて被控訴人仲宗根が被控訴人宇根に対し右特別購入券を交付したのは被控訴人宇根をして被控訴人連盟の名義を使用し罐詰を購入することを許容したものというべきである。しかも被控訴人仲宗根は当時被控訴人連盟の副会長にして且つ業務局長であつたことは、前段規定の如くであるから、被控訴人仲宗根には右の如き被控訴人連盟名義使用許諾の権限があつたと認められ、従つて公団において被控訴人宇根による前記特別購入券の使用が被控訴人連盟自体による使用にあらざることを知り又は過失によつてこれを知らざりしことの主張並びに立証のない本件にあつては、(成立に争のない甲第五十三号証の二及び原審証人宇根清一の供述によれば、宇根が同人名義の小切手を以て、公団に代金の支払をしたことがあることを認め得るが、該事実のみを以て公団の悪意又は過失を認め得ない)被控訴人連盟は被控訴人宇根が右特別購入券を用いて罐詰の配給を受けたことについて、責に任ずべきものというべきである。

しかして、前段認定のように、被控訴人宇根が公団から原判決添附第二目録記載の罐詰を受け取つた以上、被控訴人連盟は公団に対しこれが代金を支払うべき義務を負うものというべきである。しかして右代金、二百二十八万一千四百五十円の支払期限については、別段の定があつたものと認むべき何の証拠もないから、被控訴人連盟は本件訴状の送達せられた日である昭和二十五年九月三十日をもつて、右代金の支払義務につき遅滞に附されたものと解すべきである。しかして公団の有した一切の債権が国庫に帰属したことはさきに認定したとおりであるから、公団の被控訴人連盟に対する右債権もまた国庫に帰属したことは明らかである。よつて控訴人の被控訴人連盟に対する本訴請求は、右代金二百二十八万一千四百五十円並びにこれに対する本件訴状が被控訴人連盟に送達された日の翌日である昭和二十五年十月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余を失当としてこれを棄却すべきものである。よつて原判決中被控訴人連盟に関する部分はこれを取り消すべきものである。

次に、控訴人は、被控訴人連盟は法人格のない社団であり、その余の被控訴人らは被控訴人連盟の構成員であるから、被控訴人連盟が商取引をしたときは、その構成員全員が取引上の権利、義務者となり商法第五百十一条により連帯して債務を負担すべきものであると主張している。よつて判断するに、被控訴人連盟がいわゆる権利能力なき社団にあたる組織を有する社団であることは前段認定のとおりであり、被控訴人神山政長が被控訴人連盟の会長、被控訴人仲宗根仙三郎、同伊元富爾がその副会長であることは、同被控訴人らのそれぞれ認めるところであり原審証人上江洲太郎の証言によれば被控訴人宇根清一が被控訴人連盟の会員であることが認められ、原審における被控訴人(被告)宮良寛雄(その後宮川と改姓)本人尋問の結果によれば、被控訴人宮川が被控訴人連盟の東京本部長であつたことが認められる。しかしながら被控訴人連盟が前段認定のような組織を有する社団である以上、被控訴人連盟は法人ではないとしても、社員ないし役員の個人的財産関係から分離独立した存在を有するものというべく、従つて被控訴人連盟の機関又はその社員たる被控訴人において被控訴人連盟がなした取引について、取引の相手方に対し直接に権利義務を負うものとは断じ難い。もつとも、権利能力なき社団が取引する場合取引の条項中に社員ないしはその役員において取引の相手方に対し直接に責任を負う旨の特約があるときは、社員又は役員にかかる責任を生じ得るが本件においては一切の証拠によつても、被控訴人連盟のした取引において、かかる特約は認め得ない。この点について控訴人は、右の如く被控訴人連盟以外の被控訴人等は被控訴人連盟のした取引について、商法第五百十一条により連帯して債務を負担すべきものと主張するが、権利能力なき社団を嘗ての学説の如く民法の組合に類するものと解するならば格別、権利能力なき社団が社団にして組合に非ざる以上控訴人の右主張は採用に値しない。よつて被控訴人連盟を除くその余の被控訴人らに対する控訴人の本訴請求を失当として棄却し、右被控訴人らに対する控訴人の本件控訴はこれを棄却すべきものである。

よつて進んで、控訴人の被控訴人宇根に対する予備的請求につき判断する。まず不当利得を原因とする請求につき考えるに、控訴人は、被控訴人宇根は法律上の原因なくして公団より本件罐詰を受け取つたことにより右物件売渡代金に相当する利益を得たものであり、公団はこれに相当する損害を受けたものであると主張しているのであるが、前段認定の如く被控訴人連盟は公団に対して前記罐詰代金を支払うべき義務があるものであつて、然も特別購入券が被控訴人連盟に対し記名式に発行され譲渡を許さざるものである以上、被控訴人連盟のみが買主として右罐詰の所有権をも取得するに至つたものと解すべきである。従つて被控訴人宇根は、被控訴人連盟所有の罐詰によつて利益を受けたこととなるから、被控訴人宇根は公団の財産により利益を受けたことにはならないものと解さなくてはならない。そうだとすれば、被控訴人宇根が公団の財産により利益を受けたことを前提とする控訴人の被控訴人宇根に対する不当利得返還請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当として棄却さるべきものである。

次に、控訴人は、被控訴人宇根が公団から罐詰を詐取したとして不法行為を原因とする損害賠償の請求をしているので調べるのに、同被控訴人は当審において終始公示送達によつて呼出を受けたものであり、控訴人が当審において始めて右の如き詐取を原因として損害賠償を請求したのであるから、この場合民事訴訟法第百四十条第一項の適用なきところ、原審における証拠によれば、前段認定の如く、被控訴人宇根は被控訴人連盟を購入者として発行された記名式の罐詰特別購入券を同連盟により交付を受け、これを公団に提出して、罐詰売渡を申し込み、これに基いて罐詰の引渡を受けたものであるから、たとえ被控訴人宇根において被控訴人連盟の食品部長たる名称を冒用したにせよ、右の如き事情の下においては被控訴人宇根が公団を欺罔して錯誤に陥らしめて、本件罐詰を引渡さしめたものと認め難く、その他甲第三、第四号証によつても被控訴人宇根が公団より罐詰を詐取したとの事実を認め得ない。しかのみならず、前段説示のように、公団が被控訴人連盟に対して右罐詰代金請求権を有する以上被控訴人宇根が被控訴人連盟に対して責任を負うは格別、公団は被控訴人宇根に対して不法行為に基く損害の賠償を請求する権利を有しないものというべきである。仍て被控訴人宇根が公団に対して不法行為により損害を与えたことを前提とする控訴人の請求もまた失当として棄却さるべきものである。よつて被控訴人宇根に対する控訴人の予備的請求は、すべて失当としてこれを棄却すべきものである。

よつて仮執行の宣言につき民事訴訟法第百九十六条を、訴訟費用の負担につき同法第八十九条、第九十二条、第九十五条、第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田二郎 猪俣幸一 沖野威)

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